目まぐるしく変わっていく周囲、水面下で悪化してゆく戦火。
歯がゆさばかりが募りそれを消化できない塞ぎがちな心。


時折訪れる不安が形となって現れたのは、
こんな自分を変えたいと行動を起こしたすぐ後の事だった―

私がもっと慎ましくて人の言うことを聞いていたならば
こんなに辛い想いをしなくて済んだかろうか?




He won't listen to me




私を知っている人がいないところに行きたくても
ここではそれが叶わない。

降ろされた錨が飛空挺とその大地を結んでいて
機体は空を浮遊している。


いつもと様子が違ったと、あの言葉を聞いた今だから判って
その前に分かっていても私は止める術を持ち得ない。

どちらの結果になったとしても、
胸が締め付けられる程のこの苦しみから逃れられないんだ―




リドルアナ大灯台で―

船内で皆を見送って窓から外を見るとノノの姿があったから、
そこまでなら大丈夫なんだと思ったのに。

外に出るなと言われたけれど、少しでも同じ場所に立ちたかっただけなの。


聞こえてきた言葉に耳を疑い自分の腕を強く握り締めた。


嘘だとしても言って欲しくない言葉だってある。
そんな事言わないでよ。それもヴァンだけに―






『無事に帰ってきて良かった本当に。』

アテつけたようにそう口にすれば
少しは苛立ちも収まるかと思ったけど、

余計にきつい。そればかりが心じゃないから。






僅かに震えたような溜息をついて部屋のドアを閉め
こみ上げてくる気持ちを飲み込んだ。


「――っぅ・・・・」


見計らった様にノックの音が耳に届くと苦しさに喉が詰まる。


、少しいいか?」

独りになりたいのに、それをさせてはくれない。

「・・・・―」

「話がある」

「じゃあ、言ってそこで」

「姫様はご機嫌斜めのようだな」

「ついでに、話もしたくない」

「困るんだ、それは」

「・・・知らないわ」

堂々巡りの会話

これだけ拒否すれば普通は諦める筈なのに
『出てくるまで待つさ』と言葉を残す。

そう口にしたバルフレアを後にはドアの前から離れていった。

今の皆を取り巻く状況は分かっているつもりだ
それでもあんな言葉を言った後に何を言うつもりなのか。


戦力になれない居候の様な私に言う言葉なんて限られている。それを告げられる位なら―

「自分で出て行くわよ」

窓を見るとシュトーラルが速度を落とし旋回し
僅かに揺れたあとエンジン音が静かになっていく。





ドアノブに手を掛け黙したまま廊下を速足で進めば
バルフレアは当たり前の様に後ろを歩いてくる。

「喋らないで」

否定の言葉で遮っても近づいてくる足音―

「聞いてくれ」

「喋らないでって、、、お願い」

、俺は」

「聞くつもりじゃなかった!!そう言えばいいんでしょ?!
 言い訳なんて必要ない、どうせ私はっ」

「落ち着け!」

「嫌っ」

強引に腕を掴み壁に押し付ける
これほど取り乱したを見たことが無かった。



「・・・・・・・離して」

「だめだ」

「嫌」

「なら話を聞け」

「無理よ・・・」

「―ッ!」

「どうせ、、、バルフレアには分からない」

下を向いていたの頬に触れようと手を伸ばしたが、
強く拒絶され行き場を失った手がの髪に触れた。



スッと顔を上げた彼女と視線がぶつかる。

見据えたその瞳に今にもこぼれそうなほどの涙を浮かべて、
時間が止まっていくかのようにの声はゆっくり耳と心に響く。




「あなたに出会えた事がどんなに嬉しかったか」


わずかに語尾が震え噛み締める唇



「分かるわけ無いでしょ?」



まるで風が過ぎ去るかのようには俺の元から姿を消した―










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